『それからはスープのことばかり考えて暮らした』(吉田篤弘) ― #おすすめの本

『それからはスープのことばかり考えて暮らした』(吉田篤弘)の概要

映画が大好きな無職の主人公が、新しく越してきた街でサンドイッチにはまった。

好きが高じて毎日通ううちに、店長に誘われてサンドイッチ店の店員になる。

新メニューの開発に取り組むが、そのころ映画館で気になっていた女性との出会いがあって…。

それからはスープのことばかり考えて暮らした (中公文庫) [ 吉田篤弘 ]

感想(18件)

『それからはスープのことばかり考えて暮らした』(吉田篤弘)の好きな登場人物

店長に注目です。

前の仕事を辞めたばかりで三度目の正直のサンドイッチ店。

息子にもあきれられているけれど悲壮感もがむしゃらな感じもなく、やわらかな雰囲気で淡々としているところが逆に魅力的です。

息子が携帯電話を欲しがっても、携帯で打つメールのことがわからず「電報を打つ必要なんてないだろ?」といったとんちんかんな反応で、ちょっと世間からずれたような不思議な感じの人物です。

それなのにサンドイッチに関しては「パンを扱う指は細くて丸いほうがいい」とこだわりがあったりして、妙に説得力を感じる魅力的なキャラクターです。

『それからはスープのことばかり考えて暮らした』(吉田篤弘)の好きな場面

主人公があおいさんの家にあがって、あおいさんが作ったスープをごちそうになる場面です。

主人公には、既におばあさんのあおいさんに対して

「僕が昔から恋している、昔の映画の中の女優さんなのではないか」

という迷いとときめきがあって、そのあおいさんが自分を「オーリィ君」と呼んでくれます。

現実のものではないみたいなのに、その上出されたスープが「おお」「うーん」という野生の声しか出てこないようなおいしさ!

じらされた前提の上で夢心地になる場面で、とても素敵な場面です。

『それからはスープのことばかり考えて暮らした』(吉田篤弘)で得たもの

あおいさんのすることにはどこか芯の通ったような感じがあり、でもそれを人に押し付けることはなく、ただまっすぐ立っています。

それがきっと、女優をしていたころの立ち姿なんだろうなと言外に想像させられるところが、読んでいて静かに心に染み入ってきます。

主人公に伝授したスープについて「わたしの味と違う」ことを「あなたのスープである」と肯定する姿が、とてもドキッとさせられます。

そんなあおいさんが、主人公が自分のファンであることを知って何か心を寄せ始めたようなところで物語が終わる、という流れも素晴らしいと思います。

『それからはスープのことばかり考えて暮らした』(吉田篤弘)はこんな方におすすめ

全体を通しては重たいところはなく、さらっと読めるので、

ちょっと疲れていて気分転換したいとか、

「無職」「突然サンドイッチ屋の店員」「映画の女優に時空を超えた遠距離恋愛」等のちょっとした現実逃避をしたいという人におすすめです。

『それからはスープのことばかり考えて暮らした』(吉田篤弘)のまとめ

軽く読めて内容も面白い、おすすめの本です。

それでよく生活できるなあと言いたくなるような、主人公の少しだけ現実離れした設定が効いています。

家のそばの教会は気まぐれに鐘を鳴らすとか、店長の家にはいまどきテレビがないとか、映画の中の女優が今になって自分の前に現れたかもしれないとか、

そういったちょっとだけ現実離れしたエピソードや展開も、前提に乗ってすんなり受け入れていけ、不思議な物語の世界を味わうことができます。

最後に「名なしのスープの作り方」レシピが付いています。



当ブログおすすめの一冊

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