『地下にうごめく星』(渡辺優) ― #おすすめの本

『地下にうごめく星』(渡辺優)の概要

40代未婚女子の夏美は職場で部下に頼られ仕事一筋に生きながらも、どことなく心に満たされない空虚を抱えていた。

そんな時後輩に誘われて鑑賞した地下アイドルのライブに衝撃を受け、自分もプロデュースしたいと思い立つ。

しかし夏美のもとに集ったのは元のグループが解散して居場所を失ったカエデ、家庭でできそこない扱いされているいじめられっ子の天使、女装趣味のある男子高校生・翼、ファンをライバルに奪われてしまった愛梨など一癖も二癖もあるメンバーだった。

はたして夏美は問題児たちをまとめ上げ、彼女たちを輝かせることができるのだろうか?

『地下にうごめく星』(渡辺優)の好きな登場人物

一番共感したのは主人公の夏美です。

40代未婚独身、職場では年下の部下に慕われ特に不満もなく過ごしながらも夢中になれるものがなく、毎日に虚しさを抱えています。

そんな彼女が地下アイドルのライブにハマり、生き生きと「推し活」する姿がとても魅力的です。

結婚や恋愛と無縁、けれども夢中になれる何かが欲しいとあがいているアラフォー女性は共感せざるを得ません。

後半で彼女が下すある決断は賛否両論ですが、リアリティを伴っていてむしろ好感度が上がると思います。

『地下にうごめく星』(渡辺優)で心に残った場面

心に残った場面は夏美が初めて地下アイドルのライブを鑑賞するところです。

それまで地下アイドルとはかけ離れた世界で生きてきた夏美の受けた衝撃が、瑞々しい文体や心理描写で表現され、読者にも高揚感が伝わってきます。

サイリウムを振り回すファンとアイドルの一体感が最高です。

地下アイドルのライブに参加した経験はありませんが、自分も実際そこにいるような錯覚に囚われてしまいます。

人が恋に落ちる瞬間改め、人が「推し」に落ちる瞬間が描かれた名シーンです。



『地下にうごめく星』(渡辺優)で得たもの

『地下にうごめく星』(渡辺優)で考えを変えられたのは女装が趣味の男子高校生・翼の描写です。

翼は性同一性障害ではなく、ただ女の子の服やメイクが可愛いから女装をしているだけの普通の高校生です。

よくある小説ではジェンダーの葛藤に苦しむ登場人物に焦点があてられているものが多い中、翼のフラットなスタンスがとても新鮮に感じます。

異性装に特殊な意味や重たい背景を付与せずとも、コスプレの延長の認識で純粋に趣味として楽しむ層もいるのだと価値観が改まりました。

『地下にうごめく星』(渡辺優)はこんな方におすすめ

地下アイドルが好きな人や応援している人、地下アイドル活動に興味がある方には、もちろんおすすめです。

あるいは今の自分や生活に不満があり現状を打破したいけど何をしたらいいかわからず迷っている方や、ジェンダーや人間関係に悩んでいる若者に読んでほしい作品です。

『地下にうごめく星』(渡辺優)のまとめ

地下アイドルの生態や実情を知りたければぜひ押さえてほしい一冊です。

地下アイドルとファンの距離感や同グループ内の微妙な人間関係がリアリティを持って描かれており、知らない世界を覗けます。

また『地下にうごめく星』(渡辺優)で地下アイドルの興味を持った方には、真下みこと『#柚莉愛とかくれんぼ』もおすすめです。

こちらは地下アイドルのSNS炎上を取り扱ったイヤミスで『地下にうごめく星』(渡辺優)とも親和性が高いです。

斜線堂有紀『愛じゃないならこれは何』に収録された地下アイドルの話も楽しめると思います。

地下にうごめく星 [ 渡辺 優 ]