『コンビニ人間』(村田沙耶香)の概要
第155回芥川賞受賞作です。
コミカルなタイトルに加えて200ページもいかないコンパクトな分量。
しかしながら内容は濃密。
こんなに短い中身なのに、何度も笑ったり苦笑したり、「とにもかく面白い!」と思える作品にしあがっている。
コミカルで軽快な風味なのに、突き付けられる現実は他人事ではない直近での日本を表していて、改めて今後の生き方を腹積もりさせる。
古倉恵子、三十六歳独身。
コンビニのアルバイト。
彼女はいわゆる当たり前の環境下で、一般的の両親に育てられるが、周囲からは奇妙に思われる子供だった。
小鳥の死骸を見て、悲しむ友人や母親を尻目に焼いて食べようと言ったり、友人のケンカを止めてと言われてスコップで殴りかかったり、とても合理的な思考(?)の持ち主で、感情と呼べるものが感じられない。
恵子は両親や妹の麻美が悲しむ姿を見たくなかったため、不可欠以上に喋らないようにした時分もあったが、それはそれで問題視され、両親からは如何にしたら『治る』のかと思われる始末。
恵子自分も治らねばと考えながら大人になり、とある出会いを果たすこととなる。
大学一年生の時、スマイルマート日色町駅前店がオープニングスタッフを募集し、関心を持った恵子は面接を受けて見事合格。
パーフェクトなマニュアルによって動く『コンビニ』というワールドワイドにお願いを見出し、初めて世の中の正常な部品として誕生した事を感じるのだった。
身内はその移り変わりを喜び、恵子は『一般的』に向かって一歩を踏み出すのだった。
感想(35件) |
『コンビニ人間』(村田沙耶香)の注目の登場人物
やはり注目の登場人物は主人公の恵子です。
コンビニでアルバイトを開始出来て社会に溶け込んだように見えますが、接客以外でのコミュニケーションにはマニュアル等ないのです。
そんな訳で恵子は周囲の言語遣い、衣装、趣味などを取り込み、それに似せる事でコミュニケーションがとれているように見せます。
恵子は、他の人も同じなのではと考慮していました。
それ故、店長やアルバイトスタッフが変われば言い回し遣いや衣装も移ろい、久しぶりに旧友に会うと『変わった?』とよく聞かれます。
その一方で現在まではうまくやってきているつもりでした。
ただし、三十六歳という年齢を迎え、周囲は恵子が結婚しない事、常にコンビニでアルバイトをしている事を疑問に思い、持病があって体が弱いという嘘の言い訳だけでは乗り切れない場面が増大してきました。
『コンビニ人間』(村田沙耶香)のおすすめの場面①
そのようなある日、白羽という新しいアルバイトが入ってきますが、彼は初めから態度が大きく、周囲を見下すところがありました。
口癖は現代は『縄文ご時世』で、多様化しているにも関わらず現代も縄文ご時世も変化しない事に憤りを感じています。
そのような彼がコンビニでアルバイトをする要因、それは婚活でした。
業務や結婚の有る無しで人間性を決めつけられる事にうんざりな彼は、造作なく相手を同僚、もしくは客から見つけようというのです。
けれども、ろくな相手がいない、いても強くて可能な男にばかり色目を使ってこっちを見もしないなど残念だけ垂れ流し、何の収穫も得る事が出来ません。
他にも案の定、多くの問題行動が目につき、面談の末、退職する事になりました。
『コンビニ人間』(村田沙耶香)のおすすめの場面②
いつもの平穏を取り戻したコンビニですが、恵子はますます周囲との不和に気が付き、社会に馴染めない白羽と同じく、異物として排除されようとしていました。
そのようなある日、コンビニの外で偶然白羽に出会い、言いたい事を言った後に泣き出す彼を置いておくわけにもいかず、ファミレスで話をします。
相変わらず周囲のせいにして自身をキープする事に命懸けな白羽ですが、その言い分には頷けるところもあり、恵子はとんでもない教授をします。
それは、結婚届を出して書類上結婚しては如何にかというものでした。
しかも家賃を滞納してルーム占有率していた家屋を追い出されてかかっている彼を居宅に住まわせ、やはりの白羽もドン引きです。
けれども、麻美やコンビニの仲間、旧友たちは恵子のこの移り変わりを喜び、彼女と白羽は『ありきたり』に近づきます。
やがて白羽も慣れ、世の中から干渉できないよう自らを隠す事を前提に奇妙な暮らしが始まります。
一緒に日々を過ごすといっても寝るところも暮らしをするところも別で、恋人らしい事なんて皆無。
なお恵子は食べ物に頓着がないため、ご飯を餌と呼び、中身も肉や野菜に火を通すだけの文字通り餌。
恵子は、白羽を飼うと表現しているため、表面以外は全くに『ありきたり』になっていません。
『コンビニ人間』(村田沙耶香)はこんな方におすすめ
日常系の作品が好きという人にはおすすめです。
主人公と類似している部分を見つけられるという面もありますし、日常の中に隠れている驚きや発見などもこの作品を盛り上げるスパイスとなっています。
幅広い世代が共感出来る小説です。
『コンビニ人間』(村田沙耶香)のまとめ
恵子は嬉しいという感情を見出して前向きになっていますが、そのラストは決してハッピーエンドとは断言出来ません。
加えて、この不和は現代に生きる誰もが毎日感じている事なのではないでしょうか。
多様性を認めようと口では言っても、人が自らと違う人間を受け入れる事はそう容易ではないないのです。
ただし、このような生き方も可能なのだと、一つの選択の余地を本書は提示してくれているようにも思います。
もしあたなたの中に”水準となる何か”があるのであれば、周囲に惑わされずにそれに従う事も幸せになれる道なのかもしれません。