『旅のラゴス』(筒井康隆)の概要
人類が他星に移住してから2000年、超能力を得た代償として文明は後退し人類は野盗達の跋扈する世界で原始的な生活を送っていた。
若き学者のラゴスはある時は遊牧民族に紛れ、またある時は奴隷に身を落としながらも長い放浪の生活を送っていた。
一体彼の旅の目的は何なのか。
旅が終わる時、一体彼は何を目にするのだろうか。
旅のラゴス (新潮文庫 つー4-31 新潮文庫) [ 筒井 康隆 ] 感想(38件) |
『旅のラゴス』(筒井康隆)が好きな登場人物
主人公のラゴスもそうですが、それ以上に彼が旅先で出会う様々な人々が魅力的です。
非常にゆっくりとだが壁抜けが出来る特殊能力によって身を立てているウンバロ、他人が心の中で望む自分の顔を描ける似顔絵描きのザムラ、空中浮遊の能力をもって軍隊を率いるカカラニ等、どれも普通の作者ではちょっと考えつかないような個性的な人物が多数登場します。
旅の途中で訪れる街も奇想に満ちていて、特に欠けた石畳に卵を産み付ける鳥がいる街などは、どうやったらこういう発想が出てくるのかと思えるほど作者の才能を感じました。
『旅のラゴス』(筒井康隆)の好きな場面
物語の一番の見せ所である、南方の図書館についた場面です。
今まで荒涼とした世界の描写から一転として、急に現代的な文明との接点が明らかになり、物語の世界と我々の現実世界が延長線上で繋がっていることが感じられます。
それまでに隠されていた世界の謎や物語の伏線が一気に解消される場面でもあり、ベテランSF作家の構成力の高さに圧倒されます。
失われた知識を貪るように吸収して時を忘れる主人公の姿は、読書が好きな人間にとってはある種の理想だと思います。
『旅のラゴス』(筒井康隆)で得たもの
日本のファンタジー小説の中では最高峰に属する一冊だと言っても過言ではないと思います。
『旅のラゴス』(筒井康隆)と出会えてこの本の世界に浸れたことだけでも十分に読む価値があると思います。
上質な小説というのはその本の中だけで完成された世界を持っていて、読んでいる間だけでも日常生活を忘れさせてくれるものですが、『旅のラゴス』(筒井康隆)は完成度が高く特にそういった力が強いと思います。
そしてこの作品の主題は人生は旅であるということ。
読み終わった後にどこかへ冒険したい気持ちにさせてくれます。
『旅のラゴス』(筒井康隆)はこんな方におすすめ
人を選ばず誰もが楽しめる小説だと思いますが、特に中学生や高校生等、感性が鋭くで想像力が強い時期に読むと、より作品の世界に没頭できるのではないかと思います。
昔冒険小説の世界に憧れたことがある大人も同じような感動を再体験できると思います。
『旅のラゴス』(筒井康隆)のまとめ
『旅のラゴス』(筒井康隆)元々1986年に出版され細く長く売れていたそうですが、2014年からネット上の口コミで一気に火が付き、急に10万部も大増刷されることになったそうです。
特段商業的な売り込みがされていないのにこれだけ売上が伸びるということは、やはりこの作品自体がとても優れている証拠であると思います。
冒険小説というありきたりとも言える雛形に乗っ取りながらも、決してそこにとどまることはなく、唯一無二の個性を表現しいます。
ここまで完成度の高いSF・ファンタジー小説は国内では珍しいので、この分野が好きな人は絶対に読んでみるべきだと思います。