『苦役列車』(西村賢太) ― おすすめの本

『苦役列車』(西村賢太)の概要

舞台は1986年の東京。

中卒の19歳である北町貫太は中学校卒業以来日雇いの港湾荷役の仕事をしつつ生計を立てていた。

稼いだ金は日々の生活費と風俗のソープ代で消えてしまい、全く発展性のない生活を続けていたのだった。

そんな彼は世の中の多くの19歳と同じように友人や恋人を持ち、青春を楽しみたいと思うのだったが、短気で人見知りな彼にはなかなかその機会は訪れてこなかった。

そんな中、ある日港湾荷役の現場に九州出身の専門学生である日下部という青年が現れ、貫太は彼にコーラを奢ってもらった事で彼と打ち解け合い、中学卒業以来初めて友達を得た思いとなった。

実は貫太の家庭は貫太が小学校5年生の頃に父親が性犯罪を犯したことで家庭崩壊し、貫太が中学生になってから彼は初めて自分の父親の罪状を知り、そのショックで不登校となってからは他人に心を閉ざす日々が続いていたのだった。

反対に高校では水泳の選手でスポーツマンだった日下部は人当たりもよいので、貫太はそんな彼のことがますます好きになっていった。

港湾荷役の仕事を終えてからは日下部と居酒屋へ行ったり、ソープランドへ彼を連れ込んだりして、唯一無二の親友と思える程に仲を深めていくのだった。

だがそんな日々も長くは続かず、日下部に女子大生の彼女が出来ると日下部は貫太との付き合いを疎かにしだし、貫太の不興を買うが日下部はお構いなしだった。

そんな日下部と女子大生の彼女の関係性に焼餅を焼いた貫太は、2人を野球観戦に誘い日下部の彼女と打ち解け合った後で日下部の彼女から女子大生の友達を紹介してもらい、その女と付き合えないかどうかと考え始め、ついにはそれを実行に移したのだった。

だが当然そんな目論見は上手くはゆかず野球観戦を終えた後に3人で寄った居酒屋で日下部の彼女が大学卒業後はマスコミ関係の会社に入るのだ、とかその会社に入るためにマスコミ関係に強いある大学のサークルに所属していると言い出し、それが中卒の貫太には癪だったため、酔っていた貫太はその場で2人に暴言を吐き、日下部との関係性も破壊してしまったのだった。

その後まもなく日下部は港湾荷役の仕事を辞め、会うこともなくなったが、相変わらず貫太は港湾荷役の仕事に従事する日々を続けていたのだった。

『苦役列車』(西村賢太)の好きな登場人物

主人公の北町貫太がひがみっぽくて、情けないのですが、強烈に人間臭くて好きでした。

そんな貫太に付き合っている九州から上京してきた日下部はさっぱりした性格で、この男の存在もこの小説をしめっぽくしていない要因の一つだと思います。

またこの小説の時代設定が1986年ということでまだ国鉄時代のあるため、「国電」という表現が良く見られ、昭和的ノスタルジーが感じられます。

当然日下部と日下部の彼女と貫太で野球観戦に訪れた球場は東京ドームではなく、後楽園球場だったためこれも時代を感じさせられます。

『苦役列車』(西村賢太)の好きな場面

貫太が日下部と出会う前に自分の19歳らしくない生活状況を僻む場面や日下部と日下部の彼女に暴言を吐く場面が好きです。

10代は誰しも人と比べて劣等感を持ちやすい時期だと思いますが、なかなかそれをストレートに表現したり、人にぶつける人は少ないと思います。

そんな中で貫太は思いっきり僻み、自分のストレスを人にぶつけるので読んでいてある意味とても気持ち良かったです。

本当は貫太にも彼女がいれば、また違うのでしょうが、彼女がいてしまっては貫太の負の魅力は半減すると思います。



『苦役列車』(西村賢太)で得たもの

この作品に出会ったのは23歳の時でした。

当時私は高卒でなかなか正社員として働いている大卒の友人などとはギャップを感じてしまい、疎遠になっていました。

自分の中で社会の中で上手く生きられていないというコンプレックスが強くなっていた時期でもあり、悩んでいましたがこの作品に出会って、コンプロレックスが強いのも一つの魅力なのだと気付けたことが得られたものでもあります。

また、この作品を読んで自分でも私小説を書いてみたいと思いました。

『苦役列車』(西村賢太)はこんな方におすすめ

幅広い世代の方に読んでほしい作品ですが、特に10代後半や20代前半の男性に読んでほしいです。

この時代は青春の真っ只中で交際相手がいなかったり、仕事が上手くいかなかったりして悩むことが多い時期だと思います。

そんな時に『苦役列車』(西村賢太)を読んで、息抜きして欲しいです。

『苦役列車』(西村賢太)のまとめ

一冊の本が人生を変えるということはあり得るといわれますが、正に『苦役列車』(西村賢太)もその一つではないでしょうか。

何度も何度も読み返してほしい作品です。

『苦役列車』(西村賢太)は2010年下半期の芥川賞受賞作品なので、西村賢太氏も『苦役列車』もそこそこ知られていると思いますが、まだ読んだことがない人が多いと思いますので、是非一度読んでほしいです。

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