『銀河英雄伝説』(田中芳樹)の概要
人類が地球という小さな惑星を離れて銀河系をまたにかけて反映する時代、人類は皇帝という独裁者の戴く専制主義の銀河帝国と、市民から選ばれた市民の代表者である評議会が指導する自由惑星同盟の2つに分かれていた。
帝国の若き上級大将ラインハルト・フォン・ローエングラムは腐りきった帝国を打倒し誰にも指図されない地位を目指して邁進していた。
一方、自由惑星同盟の軍人であるヤン・ウェンリー准将はやる気は無いが、魔術がごとき才知を発揮し自軍の危機を救う活躍を見せる。
2人の若き英雄を軸に繰り広げられる銀河を舞台とした壮大な叙事詩が幕を開ける。
銀河英雄伝説全15巻BOXセット (創元SF文庫) [ 田中芳樹 ] 感想(4件) |
『銀河英雄伝説』(田中芳樹)の好きな登場人物
銀河帝国の陣営に登場するパウル・フォン・オーベルシュタインという人物が好きです。
非常に冷徹な策略家で、勝利を得るためあるいは犠牲を少なくするためにはいかなる非情な手段さえも躊躇なく実行するという苛烈な人物でもあります。
具体的には敵が大規模な攻勢を仕掛けてくるにあたり、戦場となる惑星にいる民間人の食料を全て撤収させるという焦土作戦を用いたりしています。
しかしながら、彼が普通の冷徹な参謀役と違うのは、完璧なまでに無私であり必要とあれば自分自身の命さえも惜しまずに作戦の中に組み込むことができるという、その覚悟にあります。
『銀河英雄伝説』(田中芳樹)の印象的な場面
同盟側の主人公でもあるヤン・ウェンリーが味方であるはずの国防委員長から査問に掛けられる場面です。
怠けること以外にやる気を出さないヤンですが、こと嫌いな人物の前で吐く毒舌は作中最強の切れ味を誇るのではないか、と思います。
国防委員長の
「国家があるから民衆の安全や安心は担保されるのであるから、軍人は国家を守ることを優先すべき」
という旨の発言に対し、
「民衆は国家が無くても生きてはいける。逆に民衆がいなければ国家というものは存在しようがないのだから、どちらが主でどちらが従であるのかは自明の理ではありませんか」
という旨の返しは作品に語られる民主主義の根幹を指摘するハイライトです。
『銀河英雄伝説』(田中芳樹)で得られたもの
それぞれの主義主張を持つ2つの社会構造体の興亡が戦争を通して描かれていく『銀河英雄伝説』(田中芳樹)は、特に現代における民主主義という体制の在り方そのものを読者に訴えかけるものであると思います。
我々の先祖達が長い時間とおびただしい数の血を流して獲得した民主主義はまだ若く、もろい部分も確かにあります。
であるからこそ、その土壌を受け継いだ我々はそのことについて無関心でいるとか、あぐらをかくとかではなく、きちんと1人1人が主権と責任を持つ1人の民として自覚しなくてはならないのではないかと感じました。
『銀河英雄伝説』(田中芳樹)はこんな方におすすめ
ガチガチの歴史小説の文体を取りますし、本編だけで文庫本10冊近くありますから読むのは大変かもしれませんが、是非高校生や大学生のような若い人達に読んでもらいたいと思います。
このシリーズ全体を読むだけで、現代社会に流れる根本的な動きというものに何らかの気づきを得られるようになると思います。
『銀河英雄伝説』(田中芳樹)のまとめ
歴史軍記もの、という取っつきにくいジャンルではあると思いますが、田中芳樹氏の巧みな筆致によって読めば読むほどグイグイと作品世界の中に引きずり込まれます。
少なくとも読んで損をした、というような残念な気持ちにはなりません。
戦争だけでなく、それに関わる様々な人々の日常の何気ないやり取りや個性的過ぎるキャラ達の掛け合いは思わず笑ってしまうものも多いです。
人生で1回ぐらいは極太のSF歴史小説を読んでみるのもいいと思います。