このブログは、私の知人や募集で集まった方々の『大人の読書感想文』を掲載しております。
本のレビューではなく、その本を読んだその人がどのように感じ、どのように影響を受け、人生に活かしてきたかをまとめています。
その本に興味を持って頂くことはもちろん、あなたの悩みの解決や人生の励みになれば幸いです。
光と影
勝者と敗者
光のある所には影があります。
勝者がいれば、敗者がいます。
今回ご紹介する本は『試合』(ジャック・ロンドン)です。
ボクシングを題材にした短編小説で、よくあるサクセスストーリーではなく負けることがわかっている老ボクサーであったり、ある目的の為に戦うボクサーだったりと、光を浴びない選手達の戦いを描いたものです。
今回の『大人の読書感想文』の作者の方は、スポーツの小説で新人賞を受賞された方です。
『試合』(ジャック・ロンドン)がどのように作者の方に影響を与えたか、見ていきましょう。
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『試合』(ジャック・ロンドン)から学ぶ、戦うことと挑戦すること、そしてそれを形にすることの大切さ
■革命のための戦いも、老ボクサーの苦闘も、その一冊の中にあった
当時中学生だった私は、特に何も得意なことがなく、また熱中することも少ない少年でした。
勉強も少なからず苦手でしたが、唯一多少自信があったのが国語で、教科書だけでなく副読本まで熟読することができました。
多分、あれは授業が自習になった時のことだと思いますが、何の気なしに教科書をめくり、授業ではやっていないページを眺めていると、お勧めの小説を特集した欄に行き当たりました。
恐らく、教科書を編纂された先生方が、私たち少年でも読みやすい本を厳選したコーナーだったのでしょうが、当時の私はさほどの興味もわかず、単なる情報として見過ごしていきました。
ただ、たった一冊、とても興味をそそられた物語がありました。
ジャック・ロンドンという作家の短編集、『試合』の中に収録された「一切れのビフテキ」、かつて勇名を欲しいままにした強打のボクサーも年老い、力が衰えていく中、たった一切れのステーキさえ食べられない状態で、新鋭のボクサーと戦うという物寂しい物語でした。
格闘技観戦や格闘漫画が好きで色々な作品を読んできた私でしたが、例えば「あしたのジョー」にせよ、拳で成り上がっていこうという勢いのある少年たちの物語であり、実際の格闘技にしても、地上波に登場するのは勝ち抜き続けてきた、まさに今が旬のファイターたちです。
■輝きの陰で
そうした物語や現実の中では、やられ役としての立場しか与えられていない老選手に焦点を当てた作品、一体どんなものなんだろうと、私の胸は思いがけず高鳴りました。
そして、その日の放課後、図書館の奥にぽつんとあった、ジャック・ロンドンのボクシング短編集『試合』と出会うことができたのです。
「一切れのビフテキ」は、想像以上のものがありました。
まだ近代的な枠組みも存在していないプロボクシング草創期、今まで満身創痍になって戦ってきたある老ボクサーが、ほんのわずかな金のために勢いのある強い若手と戦うのです。
試合に勝ったところで、チャンピオンの座が近付いてくれるわけでもなく、確実に無傷では済まないだろう難敵とぶつかるのです。
それも、自分に期待されている「役割」が何か完全に理解しながら。
老ボクサーは既に痛めつけられている肉体に鞭打つようにして、これまでのキャリアのありったけを使って若手と対峙し、そして追い詰めます。
しかし、肉体的な年齢だけはどうすることもできず、次第に追い込まれていきます。
相手の素質までをも正確に見通し、僅かなファイトマネー以外には間違いなく何もないリングの中で、虚しく孤独で、しかし尊い試合をまっとうした「彼」の物語を読み終わった私は、書籍に収録されていた他の物語も一気に読み進めました。
そこには、様々なものがありました。
ある人はメキシコの独裁者との戦いの資金を得るために不公正なリングに立ち、またある人は最強であるが故に耐え難いほどのものを突きつけられることになりました。
大昔に書かれた小説だけあって、今風の演出や過度なエログロなどは一切ありませんでしたが、それでも彼らの、現実には存在しないはずのパンチや足さばき、荒々しい息遣いは、どうしようもないほど私を惹きつけていったのです。
■スポーツに熱中し、スポーツを題材にした小説で新人賞を受賞できた「原点」は『試合』
それから、私は変わりました。
幽霊部員でも怒られないからと入った部活に熱中し、高校を選ぶ際もそのスポーツを充実してできるかどうかを基準にしましたし、全国大会などには行けなかったものの、自分としては相当満足する結果を残すことはできました。
また、大学に進んだりする中で、文筆業、特に小説への関心が高まり、独学でキャリアを積み、新人賞などにもチャレンジするようになっていきました。
もちろん、なかなか簡単に予選を突破したり、賞を取ったりはできませんでしたが、ある時、賞の締め切りが迫る中で、自分の「原点」となったスポーツを題材にした小説を書いてみようと考え、思いの丈をぶつけてみたところ、幸運にも新人賞を受賞することができました。
決して上手だとか得意だとか思ったことはありませんが、それでも何作もの小説を発表し、現在でも商業作家として物が書けているのも、あの時、ジャック・ロンドンの『試合』と出会えたからだと、私は勝手に思っています。
シンプルで、ほとんど素朴でありながらも、拳の痛みやリングの匂いすら感じさせるあの文章には、一体どうすれば近付けるのかすら見当もつきませんが、あの『試合』は、本当に優れたスポーツの試合がそうであるように、たとえ当事者でなくても、読者の心にズシリと来るような感動を与え、後の人生を左右させるような力を持った小説集ではないかと私は思っています。
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いかがでしたか?
今回の『大人の読書感想文』作者の方は、『試合』の中の登場人物の生き様に感銘を受け、自らの生き方を変えました。
そして、小説家になった今はその小説自体を自身の執筆の参考にされているようです。
世の中は勝者・成功者ばかりに賞賛を与え、注目します。
その陰では多くの敗者や注目浴びない方々がいます。
しかし例え賞賛を浴びなくても、それぞれの生き方は尊いものです。
もちろん栄光を目指し努力し勝ち得た者には賞賛を与えるべきですが、それだけが全てではないことは知っておきたいものです。
それぞれの目的の為に必死に生きることが、何よりも価値があると思います。
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