『眠れるラプンツェル』(山本文緒)の概要
売れっ子のCMディレクターと結婚した手塚汐美は、お金と時間を持て余す毎日。
ある日のこと街中で補導されそうになっていた、同じマンションに住む中学生を助ける。
スピルバーグ監督の映画「フック」に登場するキャラクターから「ルフィオ」と名付けた彼とは、次第に抜き差しならない関係に陥っていくのだった。
感想(14件) |
『眠れるラプンツェル』(山本文緒)が好きな登場人物
6年前にモデル事務所を結婚退職して現在は専業主婦をしている、ヒロインの手塚汐美が何とも色っぽいです。
午前中から近所のパチンコ屋で遊んだり、午後は自宅でテレビゲームをしたりと自由気ままな生きざまが羨ましい。
そんな汐美と抜き差しならぬ関係へと陥っていく、男子中学生の箕輪蕗巳も魅力的なキャラクターです。
シェイクスピアの代表作「ロミオとジュリエット」から名付けられた「ろみ」というキラキラネームもぴったりはまっています。
『眠れるラプンツェル』(山本文緒)の好きな場面
主人公の汐美がマンションのベランダから空を見上げて、「暇ですなあ」と呟くシーンが心に残ります。
仕事をすることなく、子育てに追われることもなく、夫の相手をすることもなく。
与えられた唯一の義務は、毎週の木曜日に生協の共同購入に出席することくらいです。
3年前に勤め先の広告代理店から独立して自分の事務所を立ち上げた汐美の夫は、 泊まり込みで仕事に追われていてほとんど家に帰ってきません。
退屈過ぎて死にそうな主婦と、過労死ラインギリギリの経営者とのコントラストが上手く浮かび上がっています。
『眠れるラプンツェル』(山本文緒)で得たもの
結婚してからは夫から毎月25日になると振り込まれてくる15万円の生活費を、ただただ浪費していただけの汐美の6年間に思いを巡らせてしまいます。
結婚前に短期間だけモデル業をしていた汐美には生活力もなく、住んでいる高層マンションから出ていくことはできません。
塔の中に幽閉されたお姫様でしかなかった汐美が、終盤では仕事を見つけて自活することを決意します。
誰かの経済力に依存するのではなく、自分の道を自分で切り拓いていくことの大切さについて考えさせられる物語です。
『眠れるラプンツェル』(山本文緒)はこんな方におすすめ
偶然にも知り合いになった隣室の美少年と次第に親しくなっていき、遂には一線を越えてしまうメロドラマのようなストーリーがドキドキです。
専業主婦の方や、マンション住まいの方は是非ともこの1冊を手に取ってみて下さい。
自分の身の回りでも起きているのではないかと錯覚してしまうでしょう。
『眠れるラプンツェル』(山本文緒)のまとめ
1995年の2月に福武書店から刊行されている恋愛文学です。
単行本の方は現在では絶版となっているために、2006年に角川書店から再版された文庫本や2007年から配信開始のkindle版の方が手に入りやすいでしょう。
中世の森の中に佇む塔を舞台にしたファンタジー「ラプンツェルン」を、現代の日本の無機質なマンションに移し変える発想が斬新です。
ディズニー風にアレンジされた「塔の上のラプンツェル」や、原典が収められている「グリム童話」と合わせて読んでみると面白いかもしれません。