『チグリスとユーフラテス』(新井素子) ― #おすすめの本

『チグリスとユーフラテス』(新井素子)の概要

地球外の惑星に移住できる未来の物語。

ある惑星に移住した人類は繁栄することに成功します。

しかし、ある時期から生殖能力が衰えていきます。

どんどん減っていく子供の数。

そんな中、人々の間に「最後の子供」という噂が囁かれ始めます。

チグリスとユーフラテス 上


『チグリスとユーフラテス』(新井素子)の好きな登場人物

「最後の子供」ルナ。

彼女は望むと望まざると最後の子供になってしまいます。

幼年期は最後の子供として世間からもてはやされます。

しかし、周囲の人間は一人、また一人と減っていきます。

自分より年上の子供だった仲間も死んでしまい本当の一人ぼっちになってしまいます。

そして、自分を取り巻く全て、自分自身の存在に対しても怒りの感情に支配されていきます。

彼女が怒りをぶちまけ、助けを求める行為は人によってはワガママに映ると思います。

ですが、その姿は悲しくも哀れでもあります。

『チグリスとユーフラテス』(新井素子)の好きな場面

ルナとダイアナが、種の保存の為に地球から持ってきた様々な動物や昆虫などを誰もいない惑星に放っていく場面が大好きです。

人類は滅んでも、大地に根ざした植物が繁殖する中放たれる動物たちを見送る二人。

その一つ一つに名前を付けていきます。

パンゲア、チグリス、ユーフラテス・・・

地球で栄えた文明の名前。

その名を授けられた動物が、文明の消えた惑星にある意味ひとつの文明を築いていく。

この物語の大きなテーマをこの場面で感じます。



『チグリスとユーフラテス』(新井素子)で得たもの

生きることの意味とは?なんて問いには、明確な正解なんか出ないんだ、と強く感じます。

美味しいものを食べ、自分で選択し、成すべきことを成し、美しいものに心を寄せる。

次の世代に命を繋ぎ、大切に育む。

そんな何気ない日々を大切にする。

そして訪れる死の瞬間、あぁ、良い人生だったな、と思えること。

これこそが生を全うするということなんだと思いました。

そしてそれは、幾つになってからも始めることができる、大切なことなんだと深く思いました。

『チグリスとユーフラテス』(新井素子)はこんな方におすすめ

物語の中で、様々な年代、生い立ちの女性が、自分の人生について深く考える下りがあります。

たくさんの女性に読んでほしい作品です。

そして、ナイーブな年代の子供達にも読んでほしいです。

きっとルナに自分を投影できると思います。

人生につまづきそうになった時に力付けてくれる作品です。

『チグリスとユーフラテス』(新井素子)のまとめ

新井素子氏というと、独特な文体や表現があるので嫌厭される方もいるかと思いますが、壮大なテーマ、魅力的な登場人物の心に刺さる言葉などで物語に引き込まれていくと思います。

文庫本だと上下巻というかなりのボリュームですが、一気に読んでしまいます。

そして、冒頭部分でも書かれているラストシーンでは、心の中にほのかなあたたかさを感じられます。

生命が誕生してから何十億年と繰り返されてきた営みに心を馳せて、自分自身を振り返らせてくれる作品です。

【中古】チグリスとユーフラテス 下 (集英社文庫)