『暗黒女子』(秋吉理香子)の概要
あるミッション系女子高の屋上から一人の女生徒が飛び下ります。
彼女は文武両道才色兼備、学園の誰もが憧れるカリスマでした。
彼女が所属していた文芸サロンの部員たちは故人を偲んで集い、順番に作文を朗読していきます。
しかし作文には次第に嘘が混ざり出し、朗読者や故人の思いがけない本性が暴かれていくのでした。
『暗黒女子』(秋吉理香子)の好きな登場人物
私が好きな登場人物は由緒ある料亭の娘、小南あかねです。
洋食屋を開くのが夢で洋菓子作りが趣味のあかねは、そのふわふわした可憐な容姿を裏切る情念を秘めていました。
自分の目的を遂げる為なら手段を選ばない過激さも素敵です。
また、彼女がサロン付属のキッチンで調理する洋菓子はどれも格別おいしそうで涎が出てしまいます。
『暗黒女子』(秋吉理香子)は意識的に語り手ごとの文体を変えているのですが、彼女の朗読が最も主観性と客観性のバランスがとれていたと思います。
『暗黒女子』(秋吉理香子)の印象的な場面
好きな場面は女子高主催のイースター感謝祭です。
文芸サロンの面々が手作りのパウンドケーキを販売しイースターバニーのきぐるみを被って踊るのですが、日本ではまださほど馴染みがないイースターの楽しさが凝縮されていて、とても新鮮です。
イースターの準備にも結構な時間と手間をかけており、サロンの面々がドタバタ奔走する様子に青春を感じました。
ミッション系女子高ならではのイベントや舞台設定を上手に使っていたと思います。
『暗黒女子』(秋吉理香子)で得たもの
『暗黒女子』(秋吉理香子)では思春期の女子の怖さや不安定さが描かれています。
自分より美しく優秀な同性への嫉妬や羨望、あるいは同一化の願望や欲望、保身から出た小さな嘘が大惨事に繋がっていく展開等、10代の女子なら共感せざるをえない負の感情のラッシュに打ちのめされます。
現在10代の読者はもちろんのこと、既に通り過ぎてしまった読者も当時の葛藤を生々しく振り返れるのではないでしょうか。
信用できない語り手達による疑心暗鬼の心理戦が楽しめる極上のミステリーであり、一風変わった青春小説です。
『暗黒女子』(秋吉理香子)はこんな方におすすめ
少女性のダークサイドに惹かれる方に読んでほしいです。
『暗黒女子』(秋吉理香子)には一面的な少女は一人もおらず、全員が表に出せない秘密を抱えています。
その表と裏のギャップが激しいほど何故か惹かれてしまいます。
自分はいい子ではないし、いい子にはなれないと思ってる読者ならきっと共感できます。
『暗黒女子』(秋吉理香子)のまとめ
『暗黒女子』はイヤミスとして評判ですが、一方で上質な青春小説である事実も忘れてほしくありません。
選ばれた生徒だけが入部を許される文芸サロンは読書好きの憧れですし、そこで過ごす放課後の日々が楽しげに描かれているからこそ、終盤で明かされる真実に衝撃を受けます。
『暗黒女子』(秋吉理香子)が気に入った読者は同系統の女子高が舞台のミステリー、皆川博子の『倒立する塔の殺人』や桜庭一樹の『青年のための読書クラブ』もぜひ読んでください。
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