『昭和史発掘』(松本清張)の概要
太平洋戦争の前に実際に発生した各種の事件、出来事について詳細に内容を研究、調査したドキュメンタリーです。
全9巻ですが第5巻から第9巻は2.2.6事件の記述に費やされていますので、まずは第1巻から第4巻まで読んでみることをおすすめします。
『昭和史発掘』(松本清張)に書かれていることは全て「本当にあった事実」であり絵空事ではありません。
いかに世の中というものが不条理にできており感情や思い込みに人間が支配されているか、ということを如実に知ることが出来る絶好の書です。
『昭和史発掘』(松本清張)の好きなエピソード
第1巻に入っている「芥川龍之介の死」は今でも別格扱いされている芥川龍之介という作家がどんな人物でであったかを、これまでとは別の角度から描写していて非常に面白い一節です。
松本清張氏は40歳を過ぎて作家デビューされるまでは一家8人を支えるために働いており生活苦を、嫌というほど味わってこられた方で世の辛酸を身を持って経験されている大人であり、芥川龍之介氏とは全く正反対の境遇にあった方です。
しかし、そういった立場を超えて「大人の目線」でしっかりと正確に描写されています。
特に谷崎潤一郎氏のデビュー時の逸話と芥川龍之介氏のデビューの比較などは「そうだったのか」と読む者に一種の感動すら与えてくれます。
また同巻に収録されている「北原二等卒の直訴]は別の意味で衝撃を受けると思います。
現代では完全に「忘れられた事実」ですが、私達のイメージする軍隊というもののイメージが変わるかも知れません。
また、信念の強さというものがどういうものかを分からせてくれる一節です。
『昭和史発掘』(松本清張)の好きな場面
第3巻に入っている「スパイMの謀略」は読む者に一種の衝撃を与えるでしょう。
こんなことが許されるのか、と思われる方も多いでしょうが、これが「ついこの間の日本」で本当にあった事実です。
こういう事実があったことを知ると人を見る目も変わるかも知れません。
松本清張氏はスパイMの正体を相当に追跡したのですが、残念ながら名前までしか知ることは出来ませんでした。
しかし後進のドキュメンタリー作家がついにスパイMの正体と人物像、その生涯、また写真までも突き止めることに成功し『スパイM』という一冊を出版しています。
この一節をお読みになられたら是非、後発の『スパイM』も読んでみることをおすすめします。
昭和史発掘はこういった「その後の続編」を後進の作家が書いているケースも多いのです。
それらを読むには、まず本体である『昭和史発掘全巻』を読みましょう。
これほど面白く、恐ろしい事実を教えてくれる全集は他にありません。
『昭和史発掘』(松本清張)で得たもの
『昭和史発掘』(松本清張)は第5巻から第9巻が全て2.2.6事件について書かれており、さすがに5巻分を読み通すのは大変だろうと感じてしまうかも知れません。
しかし実は1巻から4巻にも実は2.2.6事件が発生するまでの過程で避けて通れない事件や出来事があり、それらも含まれています。
そして、究極的には「何故、日本は太平洋戦争に突入してしまったのか」という大きな歴史の流れが具体的にどんな物であったのかを知ることが出来ます。
しかも色々な側面から描かれているので「一方的な視点ではなく多角的な視点」で捉えることが出来るのです。
そして人間の業とでもいうべき欲望と感情のない混ぜになった歴史の動きを知ることが出来ます。
第4巻に収録されている「天皇機関説」等は是非、読んでみて頂きたい一節です。
これを読むと人間というものが、どんな生き物であるのか理解する一助となるでしょう。
それほどに暗示的な一節です。
『昭和史発掘』(松本清張)はこんな方におすすめ
20歳未満の若い方に読んで頂きたいと思います。
若い方にとって昭和と言う時代はおじいちゃん、おばぁちゃんの時代でしょう。
つまり「本当につい、この間」のことなのです。
『昭和史発掘』(松本清張)は戦前の出来事について書かれているので、皆さんのおじいちゃん、おばぁちゃんの生きた戦後の時代ではありませんが、人間というものは僅かな時間で変わるものではありません。
つまり、この全集に描かれているような事件や出来事は「現代でも起こり得る」事であり実際に起こっても不思議ではないのです、これから社会に出ていくにあたり人間というものが、どんな生き物なのか、人間社会というのはどんんなものなのか、を知る絶好の書と言えます。
『昭和史発掘』(松本清張)のまとめ
『昭和史発掘』(松本清張)が発行されて久しい年数が経ちました。
ですが、『昭和史発掘』(松本清張)に匹敵するような近代史をまとめたものは未だに現れていません。
骨太で鋭く幅広い知性を持った松本清張氏という巨人がいてくれたこそ、世に出た全集と言えるでしょう。
ある意味、松本清張氏が後代のために残してくれた最も貴重な遺産と言っても良いかも知れません。
『昭和史発掘』(松本清張)を読むことは、その遺産を受け継ぐということでもあるのです。
過去にあった事実を知るだけでなく、そこから「別の何か」を汲み取って頂けたら、と思います。
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