『百の眼が輝く』(かんべむさし)の概要
星野啓二は高校生の頃の友人・大道伸夫と仕事終わりに飲みに行った際に、彼の手帳から不倫相手の電話番号を無断でコピーしてしまいます。
後日その番号に電話をかけた瞬間から、星野が迷い込んでしまった奇妙な世界とは?
『百の眼が輝く』(かんべむさし)の好きな登場人物
とある商事会社の経理課に所属して課長を任されている星野啓二は、およそドラマチックな物語の主人公に似つかわしくありません。
無機質なオフィスと自宅の高級マンションとを行き来しながら、延々とパソコンのディスプレイの前に座っている冴えない表情が印象的でした。
星野が高校生の頃から仲の良かった大道伸夫で、お酒に強くてスポーツマンタイプの豪放磊落な性格です。
まるっきり正反対な2人の間で築き上げてきた友情に心温まります。
『百の眼が輝く』(かんべむさし)で好きな場面
何かにつけて優柔不断な星野がようやく決心をつけて、オフィスビルを抜け出して地下のテナント街へと降りていく場面が味わい深いです。
一般家庭にインターネットやSNSなどのメディアが普及する直前の1992年に執筆された短編なために、登場人物達は携帯電話を所有していません。
財布からテレホンカードを取り出して手帳の電話番号を確認し、震える指先で公衆電話のボタンを押す様子が思い浮かんできました。
呼び出し音を聞いてしまった星野が一線を越えていく瞬間を鮮やかに捉えています。
『百の眼が輝く』(かんべむさし)で得たもの
仕事一筋で生きてきた堅物人間の星野が、ふとしたきっかけで伝言ダイアルへと填まっていく過程がリアリティーあふれています。
顔の見えない不特定多数が回線を介して繋がっていく21世紀の危険性を、見事に予言しているストーリーと言えるでしょう。
勤め先では外回り業務を担当しているために適度に息抜きをしている、大道のような生き方の方が充実しているのかもしれません。
せわしない毎日の中でもプライベートとの程よいバランスを取りながら、ストレスを溜め込まないコツを学びました。
『百の眼が輝く』(かんべむさし)はこんな方におすすめ
日々のルーティンワークにお疲れ気味な皆さんは、是非ともこの1冊を手に取ってみてください。
当時の世相が色濃く反映されていて、高校生が夢中なものとして「SMAP」や「安室奈美恵」といったキーワードが出てきますので1990年代に青春時代を謳歌した世代にもおすすめです。
『百の眼が輝く』(かんべむさし)のまとめ
1997年の11月20日に光文社から刊行されていて、1996年の文庫オリジナル「ひとりおきの犯人」に続けて発表した21冊目の作品集です。
小説CLUBに初出となった「不倫の報酬」から1996年小説すばる掲載の「髑髏パン」まで、9編が収められました。
デビュー当時からかんべむさし氏が創作活動のメインテーマとしてきたSFアドベンチャーばかりではなく、コメディー譚にホラーテイストなどバラエティーに富んだラインナップになっています。
『百の眼が輝く』(かんべむさし)を最後にかんべむさし氏は短編集を世に送り出していません。
想像を絶する恐怖と笑いを届ける稀代の作家だけに、是非とも新作が待ち望まれます。
|