『密やかな結晶』(小川洋子) ― #おすすめの本

『密やかな結晶』(小川洋子)の概要

舞台はとある孤立した島。

そこでは毎日朝になると、ひとつずつモノの記憶が消える。

心の中にあるものを順番に消していかなければならないのだ。

ページを捲るたびに島民の頭の中は空白になっていき、不安が増していく。

中には記憶が奪われない者もいるが、そういう人達は記憶狩りという秘密警察に狙われる。

主人公は作家の女の子「わたし」だ。

いつか小説が消えてしまったら・・・

という怖さを抱えてこの島に住んでいる。

いつか島から全てが消えてしまったら、消えたことさえ分からなくなってしまったら、この島がどういう終わり方になるのか、見届けながら読んでみて欲しい。

密やかな結晶 新装版 (講談社文庫) [ 小川 洋子 ]

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『密やかな結晶』(小川洋子)の好きな登場人物

好きな登場人物は、主人公「わたし」のことをよく見てくれる、助けてくれる「おじいさん」です。

「おじいさん」は「わたし」をお嬢さまと呼び、どこか口調は執事を思わされるような人です。

「おじいさん」も自由が失われていく島に住む島民で、多くを望まず、流れゆく時間に逆らうことなく、身を任せて生きています。

そんな「おじいさん」を初めは可哀想と思いましたが、上手く長く生きている、その強さを確実に持っています。

『密やかな結晶』(小川洋子)の好きな場面

好きな場面、記憶に残る場面は島に地震が来たところです。

津波も分からない「わたし」、何から逃げなくてはいけないのか分からない「わたし」とおじいさんは一緒に逃げます。

地震の揺れで食器戸棚の下敷きとなったおじいさんは割れた食器の破片が身体中に降り注いで顔が血だらけでしたが、それでも「わたし」を助けようとします。

一度はお嬢さまだけでも逃げてと呼びかけますが、ここで「わたし」の優しさが描かれます。

「わたし」と「おじいさん」の相手を想う気持ちが深く分かるシーンです。




『密やかな結晶』(小川洋子)で得たもの

『密やかな結晶』(小川洋子)で得たものは記憶をテーマに描かれていて、目に見えないものほど大切にしたいと、そう思わせられる作品でした。

記憶は頭の中だけではなく心の中にもある、自分だけでなく誰かの中にもある。

だからこそ共有したり、助け合ったり大切にしたりしていきたいんだと思います。

まさかミステリーでこんなことを感じるとは、と驚きですが、読んでみて間違い無しです。

何気なく過ごす日常で大切にしたい記憶を形に、目に、匂いに、耳に大切に残していきたいと思いました。

『密やかな結晶』(小川洋子)はこんな方におすすめ

『密やかな結晶』(小川洋子)を読み終えた後、本を閉じフリーズしてしまうかも知れません。

そうしてもう一度読むには勇気がある時でないと、と思うほどの作品だと実感します。

これまでミステリーを多く読んできた方でも、よくあるミステリーとはまた違う怖さや衝撃を感じると思います。

いつもと違った刺激を味わいたい方におすすめします。

『密やかな結晶』(小川洋子)のまとめ

ミステリーにしては丁寧すぎるくらいに連なれた文字ですらすらと入ってきました。

でも読み進めるごとにその心地よさはどこか奇妙に変わります。

それがラストに繋がって分かった時にはもう遅く、ぷつっと消えて、いつの間にか読み終わっていたような驚きと、少しのショックと、時間をかけて黙読したのが一瞬の出来事のように感じることでしょう。

これから読む方は、初めの文字から丁寧に丁寧に頭と心で読んでみて下さい。

そして、小川洋子氏のマジックにきっとハマると思います。