『愛と人生』(滝口悠生)の概要
日本映画を代表する『男はつらいよ』に子役として出演した「私」でしたが、主演俳優の死去によってシリーズは呆気なく打ち切りに。
その後はヒット作に恵まれないまま大人になり、かつて共演した女優と泊まり掛けで伊豆方面へと向かいます。
果たして「私」は旅先で、 懐かしいあの人との再会を果たすことができたのでしょうか?
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『愛と人生』(滝口悠生)の好きな登場人
幼い頃から華やかな芸能界に飛び込んで国民的な映画に出演しながらも、「私」としか名乗らない何ともぶっきらぼうな主人公です。
浮き沈みが目まぐるしく次から次へと新人が湧いて出てくる業界だけに、常に第一線で活躍とまではいかないのでしょう。
若くしてどこか冷めたような語り口と、達観したような人生観に共感できます。
そんな主人公の旅の相棒となるのは、バイプレーヤーとしてお馴染みのあの女優さん。
フィクションの中に実名で登場するという、大胆な試みにも驚かされました。
『愛と人生』(滝口悠生)の好きな場面
物語の出発点なるのは東京の下町・葛飾柴又、帝釈天参道に数多くの和菓子屋さんが立ち並んでいて観光気分を味わえます。
界隈を抜けると千葉県との都県境・矢切の渡しが見えてきて、その側を流れる江戸川のノスタルジックな描写にも癒されます。
後半のメイン舞台となるのは伊豆急下田駅から送迎バスで30分ほど、山道と海辺に挟まれた高級旅館。
年齢を重ねた主人公達が異なる場所で似たような風景を見た時に、予想外の行動に打って出る場面は見ものです。
『愛と人生』(滝口悠生)で得たもの
貧しかった幼少期、鮮烈な芸能界デビューを果たすもののすぐに鳴かず飛ばず。
浅草での売れない芸人時代、肺病を患って長期間の療養生活・・・
波乱万丈な10代を歩んできた主人公ですが、マネージャーやスタッフなど周りの人達への心遣いは忘れません。
10年以上も音信不通だった共演者をある日突然に呼び出して、旅行に誘ってしまうのは世間の感覚からするとズレています。
そんな非常識な行いもすんなりと許されてしまうのは、謙虚な人柄とある種の天真爛漫さのお陰なのかも知れません。
小さなの仕事の縁を大事にすることで、いつか自分の大きな糧に繋がることを学べます。
『愛と人生』(滝口悠生)はこんな方におすすめ
江戸っ子に愛され続けた下町のムード満点な団子屋『とらや』、背広を羽織りトランク片手に今でもどこかを放浪している「おいちゃん」。
これらの言葉にピンとくるであろう、旧き良き時代の邦画に慣れ親しんだ皆さんは是非とも読んでみて下さい。
『愛と人生』(滝口悠生)のまとめ
著者の滝口悠生氏は1982年生まれで東京都出身、『男はつらいよ』シリーズがスタートしたのは1968年。
リアルタイムで熱中した世代とは言い難いために、『寅さん』自体にはそれほど思い入れがないのでは。
むしろこの映画に関わった役者・製作者・裏方・原作者が、いかに千差万別な運命を歩んでいったかに興味があるようです。
参考文献として巻末に記載されている、小林信彦の「おかしなか男 渥美清」と合わせて読んでみるとより一層作品の奥行きが増していきます。