『コップとコッペパンとペン』(福永信)の概要
早くに父親を亡くして女子校に通っていた早苗は兄も弟もいないひとりっ子で、男性とコミュニケーションを取ることが極端に苦手でした。
そんな彼女がある時に図書館で調べものをしていると、親しげに話かけてきたのは隣の席に座っていた見知らぬ男の子です。
順調にお付き合いを重ねた末にプロポーズされ・・・
さらには幸せいっぱいな新婚生活を送ることができたのでしょうか?
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『コップとコッペパンとペン』(福永信)の好きな登場人物
異性のアプローチに戸惑うばかりでろくに会話を続けることができない、今時珍しいほどの引っ込み思案な早苗はいつまでも見守っていたくなるようなヒロインです。
町中の図書館の窓際の席について、ボンヤリと遠くを眺めているオープニングの横顔も可愛らしいです。
軒を連ねているごく普通の住宅街、合間にポツポツと建ち並んでいる商店や銭湯、合間をぬって延びていく線路と電線。
窓の外に広がっているのは何とも退屈な風景ですが、「どこの家にも紙とペンとコップがあるはず」というセリフから彼女の豊かな想像力が伝わってきました。
『コップとコッペパンとペン』(福永信)の好きな場面
奥手でちょっぴり夢想家な早苗に、臆することなく声をかけてくるひとりの少年を応援したくなりました。
静まりかえった館内には、時おり新聞をバサバサとめくる音が聞こえてくるだけという何とも色気のないシチュエーションで、およそドラマチックな予感はありません。
そんな幼さの残る男女の仲が、たった1度切りの出会いで一気に進展するとはビックリ。
カップルから大人の夫婦になってしまうという、急転直下の展開に引き込まれていきます。
『コップとコッペパンとペン』(福永信)で得たもの
仲むつまじいふたりの生活がいつまでも続くのかと思いきや、突如として早苗が物語から退場してしまいハラハラさせられます。
意図せずに早苗からバトンを受け取って主役となるキャラクターは、「娘」と呼ばれているだけで固有名詞さえ与えられていません。
若干14才ながら母親の不在、父との気まずい関係性等々…
次から次へと試練が訪れますが、すべてを受け流すかのような涼しげな眼差しが魅力的です。
何事にも動じずに強い意志を貫く彼女の生きざまからは、人生における予期せぬ困難に立ち向かっていくタフさを学ぶことができます。
『コップとコッペパンとペン』(福永信)はこんな方におすすめ
多くを語ることなく去っていく登場人物達のその後の運命については、『コップとコッペパンとペン』(福永信)を読んだ方本人が自由に思いを巡らせることができます。
母から娘へ、そのまた息子へと3代に渡って繰り広げられる冒険は、新しい家族の形を模索しているようでもありました。
親兄弟との距離感にお悩みの方に、自信を持ってお薦めしたい1冊です。
『コップとコッペパンとペン』(福永信)のまとめ
「コップとコッペパンとペン」は、2007年の4月20日に河出書房新社から刊行されました。
著者の福永信氏は1972年生まれの東京都出身、1998年に『読み終えて』で第1回リトルモア・ストリートノベル大賞に輝いています。
造形芸術やイラストレーションにも詳しく、ストーリーの起承転結を無視して視覚に訴えかけるような語り口が持ち味です。
予測不可能な筋書きという点では、2006年発表作「アクロバット前夜」も負けていません。