『コンジュジ』(木崎みつ子)の概要
正木せれなという31歳の女性が主人公。
実父の命日の前日に、10代の頃の忌まわしい記憶がフラッシュバックする。
男と家を出て行った実母、自身に性的な事柄を含む虐待を行う実父、実父の交際相手のブラジル人の女性、そして32歳で亡くなった伝説のロックスター・リアン。
せれなの”記憶の中にある”20年間を振り返る、壮絶な物語。
『コンジュジ』(木崎みつ子)の好きな登場人物
せれなは『ザ・カップス』という、架空の4人組ロックバンドのボーカルであるリアン・ノートンに恋をするのですが、このバンドマン描写が秀逸です。
1970年代に活躍したという設定なのですが、当時のバンドマンがいかにも言いそうな発言、ありそうなエピソードがちりばめられており、ロック好きは「あるある」を楽しめると思います。
女性の読者はリアンの兄であるジム・ノートンに好感を持つのではないでしょうか。
また、一時的にせれなの母親代わりになるブラジル人女性・ベラさんも、陰がありながらもユニークで魅力的です。
『コンジュジ』(木崎みつ子)の印象的な場面
『コンジュジ』(木崎みつ子)はせれなの現実、せれなが読み解いていく『ザ・カップス』の分厚い伝記本のエピソード、そしてせれなとリアンの妄想世界という3つの世界が並行して描かれています。
なかでも印象的だったのが、終盤のせれなとジムの妄想の中でのやりとりです。
実父から性的な虐待を受けて、今まで誰にもそのことを打ち明けられなかったせれなが、初めて自分が抱えていた苦しみを吐露しジムに受け入れてもらいます。
ジムもせれな自身が作り出した”虚像”ではあるのですが、自分で自分を救ったせれながなんともたくましく、胸を打たれました。
ジムの台詞一つひとつにも思いが込められており、木崎みつ子氏の性被害を受けた方々に対しての向き合い方の誠実さが伝わってきました。
『コンジュジ』(木崎みつ子)で得たもの
せれなほどではないとしても、性的な事柄で嫌な思いをしたことがある人(特に女性)は、たくさんいると思います。
優しい言葉をかけてもらいたい、自分を受け入れてもらいたいという気持ちがあっても、現実ではそれが叶えられないこともあります。
だからこそ現代では”自分で自分の傷を癒やす”ことが推奨されていますが、『コンジュジ』(木崎みつ子)では決して押しつけがましくなく、さりげない優しさと誠実さを込めてそのメッセージが描かれているように思います。
自分で自分を幸せにすることも可能なのだと、教えられたような気がします。
『コンジュジ』(木崎みつ子)はこんな方におすすめ
『コンジュジ』(木崎みつ子)のジャンルは純文学ですが、エンターテインメント作品のような一級品のおもしろさがあるので、万人におすすめしたいです。
ただ、取り扱っているテーマが重いので、高校生以下の読者は身近な大人に相談してから読む方がいいかもしれません。
『コンジュジ』(木崎みつ子)のまとめ
すいすい読めるわかりやすい文章で、全編に乾いたユーモア表現がちりばめられているので、重いテーマでも合間にクスクス笑えて息抜きができました。
妄想と現実(イマジナリーフレンド)を描いた作品は珍しくありませんが、『コンジュジ』(木崎みつ子)ではミュージシャンの伝記本の内容も描かれており、独特の構成になっています。
3つの世界が目まぐるしく展開していくのですが、混乱せずに読めるリーダビリティーがあり、またその世界の交わり方も鳥肌ものでした。
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