『少女地獄【何でも無い】』(夢野久作)の概要
少女地獄は3作からなる短編集で、1作目になる「何でも無い」は、とある病院に看護婦として転がり込んだ少女に、周りの人間が巻き込まれていく話です。
その少女が嘘つきの度を超えた、いわゆる虚言癖の持ち主。
周囲を嘘で騙しこみ、自身の望むがままの天国を構築していく。
ただ、とある出来事からその天国は崩壊、とたんに少女は周りの人間を巻き添えに地獄へと落ちていく・・・
少女地獄 夢野久作傑作集 (創元推理文庫) [ 夢野久作 ]
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『少女地獄【何でも無い】』(夢野久作)の好きな場所
主人公であり、本作の事件の中心である姫草ユリ子。
天才的なまでの虚言癖ですが、ある出来事で疑いを持たれ塗り固められた嘘は徐々に剥がれていき、本当の素性が明かされていきます。
本来、嘘や虚言は到底好まれるものではありませんが、読んでいる間になぜだか姫草ユリ子の脚本に魅了されてしまいます。
まるで、秀逸な作り話を聞かされているような。
姫草ユリ子に対しての嫌悪感等を感じず、命をかけた虚言の繰り返しに対して一種の儚さだとか同情といった感情が芽生え方も多いのではないでしょうか。
『少女地獄【何でも無い】』(夢野久作)の好きな場面
姫草ユリ子がとある出来事で、尋問を受けることに。
そして院長の元に帰った時には、もう誰もが彼女が虚言に取り憑かれていることは周知の事実なのですが、尋問の内容を涙ながらに語ります。
院長はそんな嘘を付くユリ子の目の奥に妖艶なまでの光を見ます。
なぜ、この娘はこれほどまでに嘘をつくのだろう?と誰もが疑問を抱いていた中、この場面は姫草ユリ子の虚言癖の核心に迫るワンシーンだと言えるのではないでしょうか。
非常に悲しく、同情せざるを得ない気持ちになります。
『少女地獄【何でも無い】』(夢野久作)で得たもの
誰しも嘘をつくことはあると思います。
ただ嘘をついてしまい、その嘘が嘘だとバレないためには、また嘘をつかなくてはいけません。
つまり一度ついた嘘は新しく嘘を生むので、今後永遠につきまといます。
姫草ユリ子は人生をその嘘に捧げ、嘘を身にまとい続けました。
嘘をつくこと自体は誰でも簡単にできてしまうことですが、悪魔に魂を売るようなもので、一度の嘘の行く末が彼女のような末路であると思うと、非常にやるせない気持ちになります。
『少女地獄【何でも無い】』(夢野久作)はこんな方におすすめ
わりと虚言癖かもしれない、もしくは軽い気持ちで嘘をついてしまうことがあるような人に読んでもらい、ユリ子を自身に当てはめてみてほしいです。
冒頭より姫草ユリ子が嘘つきであることは明らかにされています。
そのため、読者は彼女の仕込んだ嘘で周りがどう踊らされていくか、いつバレるかといったことを正に傍観するかのごとく見守ることになり、嘘のせいで望んだはずの現実からかけ離れていくことに悲しさ、寂しさ、愚かさといった感傷的な気持ちが味わえます。
『少女地獄【何でも無い】』(夢野久作)のまとめ
虚栄心を満たすため・・・、嘘そのものを創作するのが好きだから・・・、嘘をつく理由は人それぞれだと思いますが、墓場まで嘘を持って行ける人間はどれほどいるでしょうか。
ばれてしまったら、もうやり直しは効かず環境を変える他ありません。
「何でも無い」では愚かしくも、そんな嘘に取り憑かれた少女を慈しむことができます。
夢野久作氏の作品は、こういった人と人とのやりとりを独特の世界観で描きつつも、文一つ一つから登場人物の些細な感情の変化を感じ取るほどの繊細さがあります。
その他、ドグラ・マグラなど色々と面白い作品は多いので、書店などで見かけた際はぜひ一度手に取ってみて下さい。
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