『ちょっと今から仕事やめてくる』(北川恵海)の概要
大学を卒業し、印刷関係の企業に勤める青山隆は昼には上司の怒鳴り声を聞き、サービス残業続きで退社時間は午後九時過ぎという過酷な労働環境に疲れ果てていた。
ある日の帰り道、ついに冷静な思考を失い駅のホームに身を投げようとする。
そんな彼を助けたのが青山と同じ小学校に通っていたヤマモトという男。
歯磨き粉のCMを連想させる眩しい笑顔を見せるヤマモトに、青山は心を開いていく。
青山が人間らしい感情を取り戻したころ、ふとしたことをきっかけに青山はヤマモトに対してある疑惑を抱くようになり、物語が大きく動き出す。
ちょっと今から仕事やめてくる (メディアワークス文庫) [ 北川 恵海 ] 価格:693円 |
『ちょっと今から仕事やめてくる』(北川恵海)の印象的な登場人物
主人公の青山にとって、頼れる先輩として登場する五十嵐が印象に残っています。
物語が進むにつれて青山と五十嵐の関係が変化していきます。
五十嵐のある意味で人間臭いキャラクターが、この小説が説得力のある物語として読み手に受け入れられるための大きな役割を担っているように思います。
物語の後半、青山が会社を辞めることになり、ふたりは別々の道に進むかのように思われました。
しかし、最後に再会を予感させる記述があり、そうなった場合2人は互いに何を話すのか・・・
様々な想像を掻き立てられるキャラクターです。
『ちょっと今から仕事やめてくる』(北川恵海)の印象的な場面
ヤマモトが命は誰のためにあるものかを青山に問いかけるシーンが印象に残っています。
その場面は2人の主張することのどちらも理解できるように丁寧に描かれていたのが印象的です。
そして、それまでのヤマモトがどこか現実味のない不思議なキャラクターとして描かれていましたが、この場面をきっかけにヤマモトの人間味が増していきます。
青山の視点で物語を読んでいた読み手に、ヤマモトがこれまで歩んできた人生にも興味を持たせるきっかけになります。
この場面なくしてこの小説はないと思える場面です。
『ちょっと今から仕事やめてくる』(北川恵海)で得たもの
多くの小説では、物語が派手なハッピーエンドで終わることが多いと思います。
『ちょっと今から仕事やめてくる』(北川恵海)は、ハッピーエンドであることは多くの小説と同じですが、結末は決してドラマチックなものではありません。
青山は会社を辞めた後、天国のような場所で仕事をしたわけではなく、現実世界にでもあり得そうな転職をします。
だからこそラストの
「人生ってそう悪いものでもない」
という言葉も自然と受け入れることができます。
会社をやめることがタイトルになっていはいますが、決してネガティブな結果にはならないことを新しい考え方として取り入れることができると思います。
『ちょっと今から仕事やめてくる』(北川恵海)はこんな方におすすめ
特に10代の方に、何かぼんやりとした悩みがある時に読んでほしいです。
それはこの物語が社会人の人生を描いているものであるけれど、青山とヤマモトの心情は中学生、高校生の心情と重なる部分も多いからです。
20代、30代と年齢を重ねてから改めて読み返してみると、以前読んだ時とは違った印象があり、とても貴重な繰り返し読みたくなる小説になるのではないでしょうか。
『ちょっと今から仕事やめてくる』(北川恵海)のまとめ
この小説は映画化もされていますが、映画化されたものは小説とかなり違いがあります。
物語の人物設定、ラストの結末等が違います。
どちらが良いかはそれぞれの好みによって違うとは思います。
しかし、映画を見てとても満足したという方はぜひこの小説を手に取ってみて下さい。
読んでいただけたら「あ、こういう展開もあったんだな」と多くの方が感じることでしょう。
映画を通じてこの物語を知った方がこの小説を読まないことはとてももったいないことだと思います。
ぜひ両方の「ちょっと今から仕事やめてくる」を楽しんでみて下さい。